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添乗員日記 ツアコン奮闘記Ⅱ ダッシュで峠越え「薩埵峠ハイキングツアー」

ツアーコンダクター体験談

派遣添乗員20年の私が体験した、裏話、苦労話、他愛もないことから、とんでもないことまで、、ツアーに起こるハプニングなど綴っています!

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ダッシュで峠越え「薩埵峠ハイキングツアー」

以前にも書いたが、

様々な旅行会社のツアーに添乗する私たち

派遣添乗員は、お客様とは初対面なことがほとんど。

そんなお客様の希望を叶えることで、

とても面白い出会いもある!

今回はそんなお話である…

 

「薩埵峠」というのは静岡県にある峠で、

東海道五十三次にも登場する、「由比宿」と「興津宿」の間の峠である。

伝承によれば、鎌倉時代に由比倉沢の海岸で漁網にかかった地蔵の石仏を、

当地に祀った故事が名前の由来らしい。

東海道五十三次の蒲原辺りから見ると、

観音菩薩が横になる姿に見えると言われる。

 

冨士山と駿河湾がきれいに見えることから、

写真のスポットでもあり、

例年、峠を歩いて景色を堪能する人も多く、

私が添乗した、ハイキングツアーなども

数多く行われている場所である。

 

ハイキングツアーといっても、

本格的な登山ではないので、

参加する人は様々、、

しっかり装備を固めている人もいれば、

ほぼ観光、、という格好の参加者も多くいた。

 

その中でも比較的、しっかりした装備の

安藤さん(仮名)ご夫婦は、とても気さくな方たちで、

旅の始めから、バスの中や、

サービスエリアの休憩時間に

お話しをするようになっていたのでした。

 

私「今回は、ハイキングが目的ですか?」

安藤(奥さん)「健康のために歩いている延長で参加したの」

安藤(旦那さん)「私は写真をどうしても撮りたくて…」

聞いていくと、薩埵峠には、結婚する前に奥様と来たことがあり、

3人いる娘さんが、皆大きくなったのをきっかけに、

もう一度行ってみるか、、と思い立ったそうで、、、

私にカメラを見せ、、

峠の上の、昔奥さんと撮った場所で写真を撮りたい!

と張り切っている旦那様。

カメラは、いたって普通のカメラだったが、

奥さんと、思い出の場所で一枚!という気持ちが

伝わり、、応援したくなったのでした!

 

バスは高速を抜け、東海道由比宿へ。

ここでバスとは一旦お別れして、

我々は峠の道をハイキングしながら、

写真のような、峠のてっぺんをめざし、

そのまま反対側へ歩き、

「興津宿」へ行く、、という、全行程2時間ほどの

ハイキングのコースです。

 

準備体操をして、いざ峠ハイキングへ…

出発早々かなり急な坂道を登り、、

景色もまだ見えない道をゆっくりと進んでいきます。

だいたい20分くらい坂を登り続けて、

最初の休憩となりました。

「ふぅ~」

私はまだ20代、、ではあったものの、

日頃運動しているわけではないので、

足がすでに、ふらふら…

隣に来た、安藤さんも、私を見て

笑っていました!

すると、、、、

旦那様が急に、、

「ないっ!、、ないっ!」

「何がないの・・?」

「カメラが無いんだよ!!」

「うそっ」

「バスへ置いてきたらしい…」

 

なんともいえない表情の旦那様…

奥様は、「仕方ないわね…」

といったものの、、

旦那様はあきらめきれない様子で、

リュックの中や、ポケットなどを探し続けています。

どれだけ探してもないのがわかると、

ガックリ… とした様子で、

ベンチに腰掛けたのでした、、、、。

出発前の話や、旦那様の張り切りようを見ていた私は、、

いてもたってもいられなくなり、、、

「私が取りに行きます!」

「今ならまだバスは休憩しているはず…!」

奥様が、

「今来た坂を往復するのは、とても無理よ…」

旦那様も、

「それはさすがに無理だよ、、」

と苦笑…。

しかし、なぜか火のついてしまった私は、

ハイキングガイドに、詳細を伝え、

12時までは、峠の頂上にいてほしい、、

それに間に合わなければ、出発するよう伝え、

いちもくさんに坂を駆け下りました!

 

バスへたどり着くと、、、

驚くドライバーさんに、しっかり話もせず、、、

安藤さんの座席へ!

「あった!!!!!」

カメラはそこにありました!

バスを飛び出すと、あの登り坂へ…

しかし…

いくら20代でも、、山を走って、

ハイキングしているみんなに追いつくのは、、、

簡単ではない、、、。

途中吐き気をもようしながら、、

とにかく力の限りダッシュ、、、。

フラフラの足と、時計を見ながら、、

とにかく前へ進みます。

小学校の時ならった、

「走れメロス」のメロスはこんな気持ちだったんだろうな…

 

12時が近づき、、

もう走れん…

と思ったころ、、、、

「薩埵峠」の看板とともに、目の前が開けました!

すると、奥のほうに休憩している

私のハイキングツアー!が見えたのです!

「安藤さーん!」

 

お二人はものすごい笑顔で喜んでくれ、、

まわりにいた参加者も、

飲物やら、食べ物やらをくれ、

なんだかすごいことをやったような達成感、、

お二人の思いでの場所で、

ばっちり記念撮影し、

本当に感謝されたのでした。

 

その後はフラフラながら、

なんとか興津宿へたどり着き、

バスで帰ることに、、

 

帰りのサービスエリアのことです。

安藤さんの旦那さんが、

私に近づき、カメラのお礼と、

「一枚写真を撮らせてほしい」

と私を撮ってくれました。

「よい旅行になりましたね」

わたしもお力になれたことがとても嬉しく、

お二人と話しました。

 

ツアー終了から、1週間が経った時、

ツアー元の会社を通じて、

私に手紙が届きました。

手紙は「安藤さん」の旦那様からでした。

あの時のお礼だな…と喜んで封を開けると、

なんともびっくりなお手紙が…

”先日の旅行では、大変お世話になりありがとうございました。

おかげ様で私たちの良い思いでができ、

妻ともども、●●(私)さんにはとても感謝しています。”

という書き出しのあと、、

旦那様は、私に、、

ぜひ長女とお見合いをしてほしい、、という内容でした。

封筒には、娘さんの写真まで入っており、、、

これまでも、お見合いはしているような旨と、

長女も写真をみせたところ、、お見合いをしてもよい

といっている、、と、

なんと段取りのよいことか…

 

お礼の手紙を頂いてしまったので、

私からも電話をしたところ、、

お見合いの話は本気で、、

安藤さんに押される形で、

お見合いの日取り決めまで行うことに…

 

世の中の出会いとは、本当に不思議なものである。

東京の予定した会場で、お見合いをして、

おつきあいをして、、なんてことも

あったかもしれないが、、

実はこの後、海外添乗が突然連続で入り出し、、

やむなく延期することに、

タイミングを逃した結果、

話はそれきり途切れてしまったのでした。

 

その後も安藤さんとは、

年賀状のやりとりなどしていたが、、、

いつからか、音信も途絶えてしまった。

今は娘さんもお嫁さんにいっているだろうな~

とたまに思い出すことがある。

東海道を通ると思いだす若かりし頃のエピソードである。

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